香りで分かる樹木図鑑,かのんの樹木図鑑
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樹木には,独特の香りをもつものが多くある。もともとは,主に昆虫や菌類からの防御策として進化してきたのだが,中には人にとって良い香りと感じられるものもある。 また,香りが同定の有効な手がかりになることも少なくない。 ここでは,香り(臭い)で分かる樹木をいくつか紹介しよう。 |
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クスノキ科の樹木 | |
植物から得られる芳香のある揮発性の油を精油(せいゆ)という。クスノキ科には精油を含み,芳香をもつ種が多い。 | |
クロモジ (Lindera umbellata) | |
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葉をもんだり,枝を折ったりするとレモンのような香りがただよう。 高級つまようじの材料として知られ,茶の湯の世界では「黒文字」といえば「つまようじ」を指すほどである。(ふつうに我々が使っているつまようじは,加工が容易で大量に入手できる中国産のシラカバが原料である。) また,香料のクロモジ油が採れ,最盛期(明治時代)には,ヨーロッパ向けに輸出されていたという。今日では,あまり利用されていないようだが,アロマテラピー関係で注目されつつあるという話も聞く。 |
ヤマコウバシ(Lindera glauca) | |
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名が示す通り「山にある香ばしい木」である。枝や葉を傷つけると,ショウブに似た香ばしい香りがする。 かつては,乾燥させた若葉を粉末にして,麦粉や餅に混ぜて食べたとされる。また,乾燥した葉は保存が利き,非常食とされたとも言われている。 ヤマコショウ(山胡椒),ショウガノキ(生姜の木),モチギ(餅木)など,地方名が多いのは,ヤマコウバシが各地で利用されてきたからだろう。 |
ヤブニッケイ(Cinnamomum tenuifolium) と ニッケイ(C. okinawense) | |
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ニッケイは中国原産の常緑高木で,江戸時代から主に四国や九州で栽培されてきた。 樹皮や根の皮にはシナモンに似た清涼感のある香りと辛みがあり,ニッキ飴やニッキ(飲み物)の味付けに用いられる。 ヤブニッケイは,中国産のニッケイに対して,どこにでもあるニッケイという意味でそう呼ばれるようになったのだろう。香りはニッケイにはるかに及ばないが,やはり,かつては種子から香油(肉桂油)が採取され,利用されたそうだ。 調味料のシナモンは,セイロンニッケイ(Cinnamomum zeylanicum)を指し,「スパイスの王様」と称されたり,コショウ,チョウジとともに「三大スパイス」のひとつに数えられたりする。 |
クスノキ(Cinnamomum camphora) | |
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枝や葉を傷付けると,いわゆる樟脳(しょうのう)の香りが漂う。 樟脳は,クスノキの精油の主成分であり,枝や葉を水蒸気蒸留すると結晶が得られる。 衣類の防虫剤や医薬品(鎮痛剤など)として現在も利用されている。 クスノキの名の由来についても,「薬の木」「臭い木」など樟脳の薬効や香りに基づいた説がある。 |
ゲッケイジュ(Laurus nobilis) | |
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ゲッケイジュは地中海沿岸原産で,日本には,明治時代に渡来した。 枝葉や果実に芳香があり,乾燥させた葉は香辛料(ローリエ,ローレル,ベイリーフ)として利用される。 |
クマツヅラ科の樹木 | |
クサギ(Clerodendron trichotomum) | |
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雑木林の林縁や崩壊地などに生育する落葉小高木。 葉をもむと独特の強い匂いに驚かされる。しかし,決して嫌な匂いというわけでもない。 岡山県加茂川町(現在は吉備中央町)では,「クサギナ」と呼び,若葉を調理した「クサギナのかけ飯」が名物である。 |
ミカン科の樹木 | |
ミカン科の植物も精油をもち,独特の香りを発する種類が多い。 | |
サンショウ(イヌザンショウ,カラスザンショウ,フユザンショウ) | |
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葉に油点(ゆてん)が散在しており,傷つけると香りを発する。油点とは小さな透明の小点で,細胞間隙に油滴が満ちたものである。 この油点にサンショウの独特の香り成分があり,傷付けると油点が破けて,香りが発せられる。 手のひらに葉をのせて,パンッと叩くのは,つまり油点を破っているのである。 サンショウの油点は,太陽に透かすと透明に見えるので,明点(めいてん)とも言われる。 サンショウのほか,カラスザンショウ,フユザンショウ,イヌザンショウなどサンショウ属はいずれも多かれ少なかれ似た香りを発するので,同定の手がかりとして有力である。 |
コクサギ | |
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クマツヅラ科のクサギに対して,コクサギであるが,こちらはミカン科であり,分類上は全く近縁ではない。 クサギも決して嫌な匂いではないが,コクサギは柑橘系の爽やかな香りがする。 かつては,枝葉を煎じた汁で牛馬を洗いシラミ殺しに利用したといわれている。1枚の葉では爽やかな香りでも,大量に煎じればやはり臭かったのかもしれない。 |
シキミ科の樹木 | |
シキミ | |
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葉には油点(ゆてん)があり,もむと抹香(まっこう)のにおいがする。 全体に毒性分を含み,特に果実は猛毒である。 墓地や寺社に植えられるほか,神事,仏事などに用いられる。 |
スイカズラ科の樹木 | |
ゴマギ | |
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ゴマギの名の通り,葉に触れただけで強いゴマのような香りがする。 人によってはネギのにおいとも…。 |
ニガキ科の樹木 | |
ニガキ科の樹木は名前の通り,全体に苦味成分を含んでいる。 | |
ニワウルシ | |
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ニワウルシは,明治時代に,養蚕(ようさん)の飼料として各地に植えられたそうである。クワを 現在はそれが各地の河川敷など野生化している。 葉に触れただけで,けっこう強い臭気が手に残る。 |
ウルシ科の樹木 | |
カイノキ(ランシンボク) | |
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「学問の木」として知られ,岡山県閑谷学校の大木は有名。そのためか岡山県では街路樹として植えられることも多い。 ウルシ科だが普通は触れてもかぶれることはない。しかし,葉に触れただけで,かなり強い臭気がある。 |
カバノキ科の樹木 | |
ミズメ(ヨクソミネバリ) | |
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樹皮を傷付けたり,小枝を折ると,サリチル酸メチルのにおいがする。いわゆるサロンパスのにおいである。 |
葉や枝,幹に独特の香り(臭い)を有する樹木を中心に見てきた。 匂いを言語で表現するのはなかなか難しく,樹木の同定はふつうは視力に頼ることが多いのが事実である。 しかし,私自身の経験からしても植物の同定において,匂いが決め手になることは意外に多い。「この木は○○かな…?」と不安に思ったとき,ちょっと葉をちぎって揉んでみる。すると,「あっやっぱりそうだった。」という経験はみなさんにもあるのではないだろうか。 また,この匂いに,当然ながら古の人々も着目しており,その成分を生活に役立てたり,それが名前の由来になっていたりするのも興味深いところである。 おそらく匂いが同定の手がかりになる樹木は,上に紹介したよりもっとたくさんあるはずである。追々,付け足していく予定である。 |
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参考・引用文献 ・松井宏光,葉で引く四国の樹木観察図鑑,高知新聞社,2002年 ・高橋秀男・勝山輝男監修『樹に咲く花』山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑3〜5〉,2001年 |
(注)作者は樹木の専門家ではありません。あくまで趣味のページですので,まちがった情報もあるかもしれません。まちがいを発見された場合ご一報いただければ幸いです。
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