イヌ(犬)と名のつく樹木図鑑,by.かのんの樹木図鑑
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「イヌ」と名のつく樹木図鑑

植物名における「イヌ」は,「(本物に比べて)役に立たない」という意味を持っている。
「犬」は古来より猟犬,愛玩犬,番犬など人にとって実に有用な生き物だったことを考えると不思議な気がするが,「犬畜生」「犬侍」「犬死」などの言い回しには明らかに侮蔑の意味が含まれている。
だから,植物名における「イヌ」の由来を,「犬」ではなく「否(いな)」とする説もあるが,私は多くの場合はやはり「犬」が由来だろうと思う。

以下に「イヌ」と名のつく樹木を集め,その由来を私なりに検証してみた。由来を調べるに当たっては,各種図鑑やインターネット上の情報を参考にしたが,一般的な情報ばかりなので情報源は挙げない。私の個人的な見解が相当に含まれていることもご理解の上,ご覧いただきたい。また,ご意見があればこちらまで→メール
イヌザンショウ と サンショウ
サンショウの果皮が,ワサビやユズと並ぶ香辛料として古くから利用されてきたのに対し,イヌザンショウの果皮は辛みが弱く利用されない。また,サンショウの若葉は「木の芽」と呼ばれ,日本料理に用いられるが,イヌザンショウの葉は,やはり辛みが弱く利用されない。
イヌエンジュ と エンジュ
縁起木として中国から古い時代に持ちこまれた言わばエリートの「エンジュ」に対し,野山に普通にあるエンジュという意味で「イヌエンジュ」なのだろう。もしかしたら,エンジュが渡来する前は,イヌエンジュがエンジュだったのかも知れない。
しかし,庭木としてはあまり利用されないイヌエンジュも,材は黄色の辺材と暗褐色の心材の対比が美しいことなどから,床柱や木工芸品材として高く評価されている。
イヌツゲ と ツゲ
将棋の駒,櫛,印鑑など高級な材として利用価値の認められてきたツゲに対して,材が役に立たないという意味でイヌツゲだろう。
しかし,考えてみればツゲはツゲ科イヌツゲはモチノキ科であり,分類上は全くの別種である。見た目が似ていると言うだけで「役に立たない」と評されるのは気の毒な気がする。見た目が芸能人の○○に似ているだけで,ニセの○○と言われているようなものだ…。
イヌビワ と ビワ
果物として有用なビワに対して,食用にならない(=役に立たない)ビワという意味でイヌビワであろう。
しかし,これまたビワがバラ科であるのに対して,イヌビワはクワ科であり,分類上は全くの別種である。比較されること自体が気の毒である。
イヌビワは,むしろイチジクと近縁なのだから,イチジクと比較されるべきなのだが,イチジクが渡来したのは江戸時代なので,奈良時代には渡来していたビワと比較されてしまったようだ。
イヌマキ と マキ(コウヤマキ)
ホンマキ(本槇)と言われるコウヤマキに対して,それより(たぶん,見た目が)劣るという意味でイヌマキとする説が有力である。
また,古語で「マキ」は,スギ,ヒノキなど上質の材を指すことから,それより材が劣るという意味でイヌマキとする説もある。
しかし,イヌマキは日本庭園など格式の高い場でも庭木として確固たる地位を築いているし,材としても水に強い特性があり,風呂桶などに利用されるそうだ。比較の相手があまりにも凄すぎたというべきだろうか…。
イヌガヤ と カヤ
材に狂いが少ないことから将棋盤,碁盤の最高級材として名高いカヤに対して,役に立たないという意味でイヌガヤだろう。材質も異なるのかも知れないが,カヤが30m近く育つのにたいして,イヌガヤの樹高はせいぜい5m,カヤのような材は採れようがない。
しかし,これもイヌガヤはイヌガヤ科で,カヤはイチイ科なので,分類上はたいして近縁ではなく,比較されること自体が毒な気がする。
イヌガシ と カシ(アカガシ…)
カシ(樫)は,ブナ科コナラ属の常緑高木の総称である。材質は非常に堅く,粘りがあることから木刀,道具の柄などに最適であり,古くから用いられてきた。それに対して,材としての利用価値が低いという意味でイヌガシとされる。
しかし,これもまたイヌガシはクスノキ科であり,分類上はまったく近縁ではない。葉の大きさや質感が似ているだけで,優等生であるカシ(樫)と比較されてしまった気の毒な存在である。
イヌシデ と その他のシデ(クマシデ…)
シデは,カバノキ科クマシデ属の落葉高木の総称であり,イヌシデのほかにアカシデ,クマシデがある。名前の由来については,「シデ」が「四手」であることはよく語られているが,「イヌ」についてはあまり情報がないようだ。庭木としてはもちろん,材としてもあまり有用性はないようだが,適当な比較の相手もない。
そこで,シデの仲間については,果穂のボリューム感を「クマ」あるいは「イヌ」で言い表したのではないかと思う。ちなみに,アカシデは別名をコシデともいう。
イヌザクラとその他のサクラ(ヤマザクラ…)
サクラの仲間であるが,サクラに見えないことからイヌザクラとする説が有力である。やはり,これも「にせもののサクラ」という侮蔑の意味を含んでいるともとれる。「花は桜木,人は武士」と言われ,日本を代表する花木である「サクラ」と比較されては,たまったものではないだろう。
こうして,一つ一つ検証してみると「イヌ○○」の比較の相手は,食材として,木材として,庭木として,かなりの優等生ぞろいであることが分かる。中には,イヌマキのように比較さえされなければ,相当に優秀な樹木もあるのである。
また,昔の人々はいろいろな樹木の特性をよく理解し,使いこなしていたこともよく分かる。いろいろな樹木を使い比べてみて,優劣を判断した結果が顕著に名前に反映されているのが「イヌ○○」だとも言えるだろう。

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