枯れ松の観察

平成14年10月12日

岡山県佐伯町「自然保護センター」で松枯れについての定例観察会がありました。
松枯れの原因についてとても興味深いお話を伺うことができました。
このページはその時の備忘録であります。
したがって,わたしの聞き違えもあるかと思いますので内容に責任はもてません。
御了承の上ご覧下さい。

 いっぱんに,「マツクイムシ」の被害(ひがい)などといわれますが,じっさいには,マツクイムシという生き物はそんざいしないそうです。

 松枯れの直接かんけいがあるのは,マツノザイセンチュウというセンチュウの一種だそうです。しかし,そこにはマツノマダラカミキリ,マツノザイセンチュウ,青変菌(せいへんきん)の3者の巧妙とも言える共生関係があるということをうかがいました。
▲上の写真は,マツノマダラカミキリが,卵を産みつけるために開けたあなです。大あごを使って左右から切りつけるために上のようになるのだそうです。成虫は,やや弱った木をえらんで産卵(さんらん)します。この松だけで数十カ所同様の傷が見られました。

マツノマダラカミキリの成虫は健康なアカマツの枝を食べる。そのときマツノザイセンチュウは,マツノマダラカミキリの腹から出てきて,アカマツにのりうつる。(6〜7月)
▲これは,マツノマダラカミキリの幼虫が,木を食べたあとです。はじめのうち幼虫は,深くもぐらず,樹皮(じゅひ)のすぐ下の材を食べて成長するのだそうです。
▲その後,幼虫は木の中に深く入り,食べながらこずえの方向に進んでいきます。これは,幼虫が通ったあとのあな。入り口からかならず上方向に進むのだそうです。 上の幹の断面に,放射(ほうしゃ)状に青いぶぶんがみえるでしょうか?この青いのが「青変菌(せいへんきん)」といわれるものだそうです。

マツノザイセンチュウは,青変菌を食べものにしている。マツノザイセンチュウは,青変菌といっしょにマツノマダラカミキリによって,移動していく。
下のやじるしの方向から材内に入り,こずえの方向に食べながらすすみ,さなぎになるためのへやを作る(青いまる)。成虫になると上のやじるしから出ていくのだそうです。

マツノマダラカミキリが成虫になるころに,さなぎのへやに,マツノザイセンチュウがあつまってくる。そして,成虫になったマツノマダラカミキリの体内に青変菌とともにのりうつる。
ついに発見!

 これは,マツノマダラカミキリの幼虫です。小さいながらも,あごはとても発達していました。
 昔の人は,この幼虫を貴重なタンパク源として人によっては生食していたという話を聞きました。「水がわりじゃ!」と,頭をのこして,「ちゅるん」と食べたとか…。
 こうしてみてくると,マツノマダラカミキリとマツノザイセンチュウ,青変菌の巧妙とも言える共益関係が見えてきます。つまり,マツノマダラカミキリは,自分では移動できないマツノザイセンチュウの運び屋となります。そのかわりに,マツノザイセンチュウは,元気なアカマツを枯らし,マツノマダラカミキリの産卵場所を提供するという関係です。
 しかし,松枯れが大きくすすむ原因をつくったのは,やはり人間だとも言われています。かつては,下草かりをするなどして,燃料としてのアカマツ林を大事にし,ほごしました。そして,枯れた松は,燃料として有効に活用されました。
 ところが,近年まきをたく必要もなくなり,ふえすぎたアカマツ林は放置され,枯れ松も活用されず残されるようになりました。
 ふえすぎたアカマツ林に,それを管理しなくなった人間…そこにバランスのくずれが生じたということだそうです。
これは,おそらく「キボシゾウムシ」の幼虫が食べたあとだということ。
かつら様より,掲示板を通して貴重なご意見をいただきました。以下に紹介させていただきたいと思います。

「松枯れの原因は、酸性雨による土壌変化及び富栄養化による抵抗力の低下。
センチュウをヤニで死滅させることが出来なくなったのが根本的原因だと思っています。
木炭の粉を撒いて酸性土壌を中和させることで、回復している事例があった様に思います。」

以上のようなご意見でした。
さっそく旭町の図書館にいき,松枯れに関する資料を探してみました。
子供向けですが,「森からみる地球の未来 森の異変(文研出版 松井光搖編・小林富士雄著)」という本を見つけました。なかなかおもしろい本でした。

 この中に,マツのヤニの効力に関する実験が載っていました。ホッチキスで幹に穴をあけていると,松ヤニが急激に出なくなることがあるのだそうです。そうなったとたんに,マツノマダラカミキリなど,マツの材を食べる昆虫が産卵に訪れるようになったそうです。
 ヤニがたっぷりあれば,マツノマダラカミキリは産卵できないわけですから,マツノザイセンチュウもマツに乗り移ることができないわけです。

 そして,驚くべき事実が!
 なんと,マツノザイセンチュウは,アメリカ大陸原産なのだそうです。それが,木材を通じて日本に持ち込まれたらしいのです。たしかに,こんなにマツが大量に枯れるというのは,異常事態です。生態系が大きく壊れる原因として,帰化生が関わっていることはよくあることです。この説は確かに考えられそうです。

とりあえず おしまい・・・

(注)作者は樹木の専門家ではありません。あくまで趣味のページですので,まちがった情報もあるかもしれません。まちがいを発見された場合ご一報いただければ幸いです。


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