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「高間熊野神社」に向かう途中,鶏足山(山頂の標高585.5m)の山腹に高梁市方向の山並みがよく見える地点があり,ずいぶん高いところまで登ってきたことを実感した。 |
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本当にこの道で合っているのだろうか…細い山道を少し不安な気持ちになりながらも進むと,道のかたわらに小さな祠(ほこら)があった。
私の目を釘付けにしたのは,その祠ではなく隣にある2本の大木。1本は紛れもないタブノキである。
標高約500mの場所にこんなタブノキの大木があるのが何とも不思議に思えた。もう1本は落葉樹で,樹皮にはツル植物が張り付いており,樹種は特定できなかった。 |
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▲タブノキ(クスノキ科)の大木 |
▲不明,ツル植物はテイカカズラか? |
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もう少し進むと「郷土記念物 高間熊野神社の森」と書かれた案内板があり,ほっとする。
「高間」とは,この辺りの地名で,少し手前の高梁市にも熊野神社があるので,区別してそう呼ばれているのかもしれない。
書かれた内容は,下の通りである。 |
郷土記念物 高間熊野神社の森
社伝によると、熊野神社は土御門天皇の勧請で建仁元年(1201)「天王宮」と称し、延宝元年(1673)に造立され、後に熊野神社として改称したもので、地域の鎮守の神様として親しまれている。
社叢は、タブノキ、モミ、ウラジロガシなどの高木層、カゴノキ、ヤブツバキなどの亜高木層、ヤブツバキ、ヤブニッケイなどの低木層により構成されているが,量的には高木層が多い。
また、周辺の雑木林には、タブノキ、ヤブツバキ、カゴノキの巨樹が点在している。特に沿岸地に多い樹種であるタブノキは海抜面からは分布の上限に近く、この健全な状況は学術的にも注目されるものである。…略… 岡山県
(左の案内板より) |
車を降り,山道を歩いて進むと,鳥居が見えてきた。鳥居のすぐ後ろには,早速タブノキの大木がある。
鳥居を抜けると社務所のような建物や,本殿があり,その後ろに社叢があった。
もう2時間もすれば日が暮れてくる…気を急かしつつ足を踏み入れた。 |
高木層
圧倒的な存在感を示していたのはやはりタブノキ。胸高周囲が2mを超えるような大木が10数本はありそうだった。ほかにはウラジロガシやケヤキがあったが,やはり樹高が高すぎて確信が持てないものが結構あった。案内板にあったモミは私が歩いた範囲には見あたらなかった。 |
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▲タブノキ(クスノキ科)の大木 |
▲ウラジロガシ(ブナ科)の大木
タブノキに比べると数はずっと少ないようだった。 |
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▲ケヤキ(ニレ科)の大木
社叢の中心部をやや外れたところで2本だけ確認できた。もう1本はこれほどの大木ではなかった。 |
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亜高木層
優占種と言えそうな樹種は,ヤブニッケイ,シロダモ,ヤブツバキ。数は少ないがカゴノキも見られた。県内の照葉樹林内でよく見かけるサカキ,カナメモチ,カクレミノは見かけなかった。 |
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▲ヤブニッケイ(クスノキ科)
胸高周囲にして約60p前後のものが見られた。 |
▲シロダモ(クスノキ科)
シロダモは亜高木層よりも低木層に多かったが,それでもこの写真のもののように胸高周囲が55pもあるものもあった。 |
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▲カゴノキ(クスノキ科)
胸高周囲は測定していないが,だいたい50〜60pぐらいだったと思う。高木層に達しているものは見あたらなかった。 |
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低木層
ヒサカキ,ネズミモチ,シキミ,アオキ,ヤブコウジ,チャノキなどが目に付いたが,どれもそれほど多くはない。アオキは部分的には多かったが,やはり,全体では少ない印象だった。 |
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林内は薄暗く,草本層が発達していないため林床はとてもすっきりとしている。
しかし,どうも移動しにくいのは,枯れたマダケが散乱しているため。周辺の竹やぶからマダケが進出してきているが,日照量不足で成長しきれず途中で力尽きたという感じだった。
そんな中,林床に多いのは,やはりタブノキの実生。ほかにもカゴノキ,シロダモなどの実生が見られた。 |
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▲社叢の周囲を見渡せば,マダケの鬱蒼としたヤブ。とても中に入れそうもない。 |
ツル植物では,チトセカズラ,ムベ,テイカカズラが見られた。 |
岡山県内でも稀なタブノキの自生地をこの目で見ることができ,大満足だった。しかし,タブノキは熊野神社の社叢だけでなく,その途中にも多く見られたので,この地の気候によく合っているのだろう。
おかやまの自然第2版(岡山県環境保健部自然保護課,1993年)によると,この地のタブノキは,「(高梁川からの)川霧などの湿潤な環境をわずかな支えとして生きていると考えられている。」のだそうだ。 |